
微分音とは、半音よりもさらに細かい音程のことです。ギターは半音区切りでフレットが打ってありますが、その間の音程を出す奏法がいくつかあります。今回はそれらの奏法について考えつつ、表現豊かな演奏を目指してみたいと思います。
微分と言えば、数学でやる微分・積分を思い出すかもしれません。
苦手な人にとっては微分音という文字づらだけで頭が痛くなりそうですが・・。
そもそも数学の微分も「微小な部分」の変化に着目する考え方なので、音楽の微分音と意味はそれほど変わりません。
微分音は本来、半音を半分や3分の1などに区切って、新たな音階を作る用途で使われるようです(Wikipedia「微分音」より)。
しかしここでは広義に、半音の間にある音程全般だと捉えたいと思います。
言うなれば、ギターのフレットとフレットの間にある「微妙な音程」ですね!
ピアノだとあらかじめ決まった音程しか出せません(階段を上るイメージ)。
逆に、フレットのないバイオリンなどは連続的に音程を変化させられます(坂道を登るイメージ)。
ギターはこれらの良いとこどりのような感じで、フレットがあるにも関わらずチョーキングなどによって微分音を出すことができます(階段が設置された山道を上るイメージ)。
ギターの強みでありギターらしさでもある微分を出す奏法について、以降にまとめてみたいと思います。
それぞれで独自に発展しており、大したコメントができない奏法もありますが、全体を軽く俯瞰するくらいの気持ちで読んでもらえると幸いです。
ビブラート
まずは左手を揺らしてかけるビブラートです。
近年は打ち込みやAIによる演奏も多い中で、自然なビブラートは人が演奏していることを感じられる重要な奏法の1つだと思います。
主に2通りのやり方があって、横に揺らす派と縦に揺らす派に分かれますね。
横派はクラシック系のギタリストに、縦派はロック系のギタリストに多いように思います。
横ビブラートは音程の変化は小さいものの、音程が低くなる方にもかけることができます。
逆に縦ビブラートは音程の変化を大きくできるものの、音程が高くなる方にしか、かけることができません。
ビブラートの縦横に関しては、寺内タケシさんが興味深いコメントをしていたのを思い出します。
確か「縦でビブラートをやるとフレットに悪いから横でやらないとだめ!」というものです。
寺内タケシさんと言えば、歯に衣着せぬ物言いで豪快なイメージですが、ギターを大事にしていることが伝わってきて、何だかほっこりする言葉です。
個人的にはフレットが削れるとかよりも、どのような音が出せるかの方が重要なので、縦でも横でも好きな方を使うか、状況によって使い分ければ良いとは思いますが・・。
しかし、横のビブラートは少し特殊だとも感じます。
クラシック系のギタリストに横派が多いのは、バイオリンなどの歴史のある弦楽器のビブラートが横にかけられているので、それを踏襲したものだと思われます。
バイオリンは実際に弾いたことがありませんが、音程が低くなる方向にビブラートをかけるときは、押弦した指をヘッド側(糸巻きの側)にずらしてもとに戻す動きになるかと思います。
一方で、ギターで音程が低くなる方向にビブラートをかけるには、押弦した指をブリッジサドル側に移動させる方向になります。
ギターにはフレットがあるために、ヘッド側に引っ張ると音程が高くなり、ブリッジサドル側に緩めると音程が低くなるためですね。
これはバイオリンのビブラートと反対方向の動きになりますし、そもそもヘッド側にいくと音程が下がり、ブリッジサドル側にいくと音程が上がるという感覚に反しています。
横のビブラートは音程の変化が小さく、長い周期でかけないのであまり気にならないかもしれませんが、少し違和感が残りますね。
まあナチュラルハーモニクスだって12フレット上より5フレット上の方が音が高かったりするので、慣れの問題なのかもしれませんが・・。
横にしろ縦にしろ、ビブラートはしっかりとコントロールして感情を表現したい所です。
そこで問題となってくるのが、小指の存在ではないでしょうか。
押弦する他の指に比べて細い小指は、ビブラートをかけるのに若干不利なことは否めません。
もちろん、小指でも練習すれば、他の指と同じ音程変化のビブラートをかけることも可能だと思います。
しかし、例え聴こえ方は同じでも、小指よりも薬指でかけるビブラートのが弾いてて気持ち良いので、個人的には好みです・・。
なので、スケールの運指的には小指が担当するような音も、長く伸ばしてビブラートをかけるような場合は運指を変更して薬指で押弦したりします。
単音のフレーズの場合は、先ほどのように運指を変更することも可能ですが、和音を弾いている時はそれが難しいですね。
特に、ソロギターのようにコードを押えつつトップでメロディーを弾いていると、運指がほぼ固定されてしまいます。
そのままメロディーにビブラートをかけるように頑張るしかないこともありますが、そのコードがバレーコードなら、まだ何とかなるかもしれません!
というのも、バレーコードを親指で押えるシェイクハンドグリップに変更することで、手首が回転させやすくなり、ビブラートがかけやすくなるからです!
シェイクハンドグリップだと逆に押弦できる範囲が狭くなる(指を伸ばせない)ため、常に代替できる訳ではありませんが、選択肢の1つとして考慮しても良いのではないでしょうか。
ここまで書いてきたビブラートですが、ある程度ギターに慣れてくるとほぼ無意識でかけている人も多いと思います。
自然にできるなら良いのではと思われるかもしれませんが、それが悪い方向に働く場合もあったりします。
私が実際に困ったのは、ギターでオルガンなど他の楽器をエミュレートするエフェクターを使った時です。
模倣する楽器がビブラート奏法を用いない場合、入力元のギターでビブラートをかけてしまうと、いかにも不自然な音になります。
結果、なるべくビブラートをかけないように我慢して弾くという謎の状態になってしまいました。
こうなると普段から必要以上のビブラートをかけている可能性があるので、自分の演奏をしっかりチェックしないと駄目ですね・・。
さて、ギターで微分音を出す奏法についてまとめるつもりが、ビブラートだけで結構な分量になってしまいました。
タイトル詐欺じゃないか!と言われそうですが、今回は一旦ここで締めさせて下さい・・。
次回は後編として、しっかりとビブラート以外の微分音を出す奏法について書きたいと思います。
それでは、ビブラートよもやま話にお付き合い頂きありがとうございました!